「管理職になってもいい」と思ってもらうために必要なこと
「マネジャー受難の時代」が続いています。環境の変化や価値観の多様性に変革を求められ、業務過多になっているマネジャー諸氏は少なくありません。一般社員特に若手社員は「管理職になりたくない」という声が多く、このままでは組織の重要な役割を担っている管理職が機能しなくなる危険性もはらんでいます。本稿では、なりたくないと思われている管理職の現状と解決するためのヒントをご紹介します。
大変そうな管理職にはなりたくない
株式会社日本能率協会マネジメントセンターが2023年4月に実施した「管理職の実態に関するアンケート調査」において、77.3%のメンバーが「管理職になりたくない」と回答しています。同調査を実施した2018年の72.8%から4.5%増加しています。管理職になりたくないと思う一般社員は多い傾向が続いています。
管理職になりたくない理由としては、「自分は管理職に向いていないから」が最多で、「管理職の負荷と報酬アップが釣り合っていないから」「業務量や業務時間の負荷が高いから」「責任の重い仕事をしたくないから」「プレイヤーとしての仕事の方が面白いから」となっています。
働き方改革、価値観の多様化、ダイバーシティなどにより、マネジメントも変化を余儀なくされてきました。その結果、メンバーに任せていた業務の取りこぼしは管理職がフォローし、本来のマネジャー業務に加えて業務過多となり、さらにメンバーとのコミュニケーションの時間を捻出できない状況に陥ります。特にコロナ禍で入社した新人や若手社員に対しては、リモートワークで十分なコミュニケーションが取れず離職につながってしまったこともあったかと思います。
そのような上司を見ていると、一般社員が「給料が少し上がっても大変そうだ。自分には無理だし、やりたくもない」と思ったとしても仕方ありません。特にワークライフバランスを大切にしている若手社員であればなおさらでしょう。
そもそもなぜ、こうまで管理職に負荷がかかってしまっているのでしょうか。
管理職がやるべき(とされている)ことが多すぎる
人材が十分に確保され組織の新陳代謝がスムーズに行われているときは、管理職はメンバーの能力や成長を引き出し、目標を達成することに専念できたでしょう。
しかし、今や少子高齢化により労働人口は減少し、若手人材の離職・転職による雇用の流動化が顕著になっています。そのような状況下では、管理職がプレイングマネジャーであることは少なくありません。チームの目標達成のためには自らプレイヤーとして現場で動き、その上でメンバーの労務や勤怠の管理、人事評価、指導・育成をしています。そして近年、リスクヘッジのための手続きや提出書類の増加もあり、DX化で早期に手が打てている組織であれば軽減されていることでしょうが、明らかに負担は増しています。
そして、メンバーに対する丁寧で細やかなコミュニケーションや育成が今の時代は必要だと言われています。さらに前述したように、残業できずにとりこぼされたメンバーの業務フォローなども加わり忙殺されてます。
管理職が自組織の責任者として果たすべき使命(目標達成のためのチーム戦略、チームの新たな価値創造でどのような貢献がしていけるか、そのために必要な人材配置や人材投資・育成などの策定実行)に十分な時間を取るためには、管理職に集中している「やるべきこと」の見直しが必要ではないでしょうか。
チームの人材戦略を明確にする
ジェックのリーダー研修では、「経営者的意識を持ち、チームメンバーを成長させ、自部門の業績成果を上げ続けるチームづくりができる」リーダーをつくります。
経営者的意識から、チームを会社として在り方を考えてみましょう。
リーダーはチームがどのような成果を上げ貢献するのか(果たすべき使命)を明確にします。するとそのために必要な人員配置が見えてきます。自らがプレイングマネジャーとして牽引したり、人員を補充したりする必要もでてくるでしょう。しかし、前述のようにリーダーに業務が集中しすぎると、チーム自体が回らなくなってしまいます。そこで、集中している「やるべきこと」を分けてみましょう。
・リーダー不在時などの補佐は、次期リーダーとしてプレマネジメントの経験が多少あるNO.2を配置する。
・チームのHR担当のNO.2を配する。全社のHR担当と連携を取りリーダーおよびチーム内の調整役となる。
・チーム内の課題解決をそれぞれ2,3人のメンバーでチーム内プロジェクトとして運営させる。
・新人若手の育成は、育成計画を基に経験豊富なベテラン/シニア社員とHRのNO.2に任せる。
分担すれば、プレイングマネジャーであったとしても、NO.2やチーム内プロジェクトリーダーと密な連携をとり、チーム内を把握することができます。そしてメンバーそれぞれと1on1ミーティングや日々のコミュニケーションなどの時間を創りだすこともできるはずです。
分担はメンバーにとってもメリットがあります。新人は業務に慣れて独り立ちするとチーム内でのプロジェクトに参画したり、若手はチーム内プロジェクトリーダーの経験をしたりすることで、プレマネジメントの経験も少しずつ積み上げていきます。リーダー補佐をする頃には、全社的なプロジェクトに参画することも多いでしょう。そのような経験は、今後自分がどうなっていきたいのか考える機会となるはずです。
チームの使命はさまざまでも、チーム内の人材戦略やキャリアパスが明快であれば、少なくとも「管理職ってなんか大変そうだからなりたくない」という理由はなくなります。その上で、「やはり自分は現場でプレイヤーとして極めたい」「この部署ではなく○○で力を発揮したい」などメンバーのなりたい姿が明確であれば、それは危惧すべき状況ではありません。
メンバーも自らキャリアを考え創造する
マネジメントに変化を求められているということは、管理職だけでなくチームや組織も変化が必要ということです。同様にメンバー自身も変わっていかなければなりません。
先が読めない市場環境に対して、企業は競争力を維持するために常に変革し適応することが求められています。いつどうなるかわからないこの時代、常に「自分の市場価値」に敏感でなければいけません。「今の仕事の仕方で、自分のキャリアになるのか」という問い掛けを自分にしている人も多いでしょう。
自分のキャリア・デザインを会社任せにせず、「自分の人生をどのように生きていきたいのか」「どうすれば自分が希望する人生を生きられるのか」を考えて、人生を自分の手で切り開き、確立していく必要があります。
キャリアアップを考えていくうえで、「管理職なんて責任のある仕事が自分にできるだろうか」と逡巡される方は多いと思います。しかし、実際の管理職の業務を要素分解してみると、メンバー育成だったり、業務改善だったり、日常ですでに実施している業務も含まれているはずです。
そして、役職が一つ上がると自分の意志で判断できることが増えます。自分がやりたいと思うことがあったら、自分で考え協力を仰ぎ、壁にぶつかりながらも、進めていき達成につなげることができます。
管理職になるということはできることが増えていくということです。できることが多いに越したことはありません。
忙しそうでも活き活きしている、長時間勤務のときもあるが休みもちゃんと取っている、忙しそうだけれど話しかけやすいし頼りになる、何より仕事をするのが楽しそうだ。そのような上司が身近にいたら、自分も上司のようになりたいと思うようになるのではないでしょうか。