リーダーとメンバーの創造性を発揮しやすい関係性づくり<後編>
激しい環境変化に適応するためには、組織もそこで働く個人もそれぞれに変わっていくことが求められます。しかし、改革を支える人のメンタルヘルスが損なわれたら、改革自体が危ぶまれます。
変化に伴うストレスを健全化し、メンバーが創造性を発揮しやすい環境をつくるためのポイントは、良好な上下の関係づくりです。この関係性について考えてまいります。
後編は4つのプロセスの第3段階「パートナー促進」、第4段階「共創促進」についてご紹介します。
第3段階「パートナー促進」
第1段階の「関係促進」がうまく進むと上下の距離が縮まり、感情的にも近づいて人間関係も深化します。
そして、第2段階の「納得促進」では、「さすが頼りになる優秀なリーダーだ」納得感を得てさらに関係性が深まるはずなのですが、実はここに落とし穴が生まれやすくなります。
リーダーの力量が分かってくるほどにリーダーを敬遠する、心理的距離が離れる傾向がでてきます。これが高まってしまうと、やがて嫌悪感に変わりネガティブ感情が生まれ、放置しておけば、築いてきた関係性が「他人関係」に戻ることにもなりかねません。
そこで、「リーダーとメンバーは心強いパートナー同士だ」という関係を促進する、つまり「敬遠感を払拭して心の触れ合いをつくり、敬愛しているという心服感を作るプロセス」が必要なのです。それがこの第3段階です。
関係性が進むと、リーダーはメンバーの個性や強みや弱みを理解しています。すると、弱みを改善するために厳しい指導をすることがあります。その結果、メンバーの心理的距離が遠ざかったり、モラルハラスメントやパワーハラスメントだと感じたりする恐れもでてきます。
この段階では、何がメンバーの「感情を近づける」かという判断基準を明確にして対応する必要があります。
感情を近づける必要性
なぜ感情を近づける必要があるのでしょうか。
それは、モラール(やる気)を高めることが、より心の力(メンタルパワー)を高めるからです。
モラールの高さとは「言われたこと以上をどれだけやろうとしているか」です。
メンバーのモラールの高低は仕事に取り組む姿勢に影響し、ケアレスミスだけでなく、社会的信用を失墜しかねない事故が発生する可能性もあります。
営業活動において「最後にもう一軒訪問しよう」や、「念のためにもう一度確認しておこう」などの「プラスアルファ」をどれだけ行うかも、モラールは大きく関わっています。
そして、このモラールの高低は、メンバーとリーダーの関係が協力的か否かによって変化します。
メンバーの感情を近づけ、モラールを高め、「このリーダーについていきたい、一緒に仕事をしたい!」となれば、メンバーの取り組む姿勢が前向きになります。
それとともに、リーダーもよりリーダーシップに自信が持てるようになるため、結果として互いの心の力(メンタルパワー)が高まります。
心服感をつくるための打ち手
①強みを発見し共感する
メンバーの自信となって成果につながりやすくなる。自分の強みを認めてサポートしてくれるリーダーに対して感情的に惚れるようになる
②メンバーのタイプに応じた個別指導をする
強みを引き出すための個別指導は、自分のことをちゃんと見てくれているという親密な感情が生まれる
※個人のストレス感覚は千差万別なので、個別指導がよいタイプもいれば、(特別扱いはされたくないなどで)同じ指導の方が安心するというタイプもいます。それぞれのタイプを見極めての対応が必要です。
基本的には「集団指導は公平原則で、個人指導はタイプ別原則で」を判断基準に、大勢の前やメンバー2人以上に対する指導は公平原則を心掛け、一対一の指導ができるチャンスではタイプ別原則を実行してみましょう。
③メンバーの責任感を奪わないように、リーダーは上手に目標達成のへルプをする
メンバーが「この目標は何としてもやり遂げなければ」と必死になっているのにうまくいかなくて困っている場合などです。
うまくヘルプするとメンバーは「助かった、ありがたい」と思い、たとえリーダーと相性の悪さを感じていても、リーダーに好感情と尊敬心を抱くことが多いでしょう。
この段階を成功させるためのリーダーの打ち手
前述の心服感をつくる打ち手に加えて以下のような取り組みが有効です。
①自己実現欲求を高める動機付けをする
自己実現欲求とは「自分の可能性を追求して理想の自分に近づきたい、自分の能力や才能を最大限に発揮したい」という欲求。この欲求を満たす働きかけをすることで、メンバーはやる気が高まり、リーダーに対する心服感が醸成される
②自由跳量の枠を広げる
メンバーのやる気や自己責任意識が強まり、それをサポートしてくれるリーダーに対して、パートナーとして関係性が促進される
③断固としてメンバーを保護する
自由裁量を拡げ任せると同時に、しっかりとサポートする(何かあったときには共同責任を負う)という態度を見せることで、メンバーは感情が近づきさらにモラールが高まる
④共通目標の統合と共同作業をする
チームとして達成すべき共通目標や、そのために何をしていくべきかを共に考えるとで、同志の気持ちを強め、共同作業することで感情をより接近させる
第4段階「共創促進」
これまでの段階を進んできて到達した一番良い関係性が第4段階「共創促進」です。一番ストレスなく働ける段階と言えます。
ところが、「最高の信頼関係」になれた安心感から、気持ちの緩みが生じやすくなります。
「自分とリーダーはお互いよく分かり合えている特別な関係だ」との慢心から、「このくらいは大目に見てくれるだろう」や「リーダーにいちいち確かめなくても大丈夫。リーダーの考えることは自分にはもう分かっている」という、甘えや自己判断が顔を出てきます。
ここでしっかりと手を打たなければ、マンネリ感が強まったり、仕事への情熱が薄れ始めたりします。
マンネリとは状況に慣れて新鮮味がない状態のことです。いろいろなことが面倒に思えたり、つまらなくなったりします。そうなると新たな知恵や強みがうまく発揮されず、成果につながらなくなることもでてくるでしょう。やってきたことが成果につながらなければストレスが強まり、最高だったはずの関係性が壊れてしまいます。
そのために、第4段階の「共創促進」では、新たな価値創造のために「開放と緊張の調和がとれた刺激」をつくるべき段階です。慢心からのマンネリ感を絶つことで、「使命感ややりがいの火を燃やしつづけ、創造力発揮を増進される」高揚感をつくるプロセスです。
リーダーがこの良い状態を継続していけたら、「この人となら、成果を生み出し続けられる」という思いを強化できるでしょう。
成功に導くリーターの打ち手
①集団活動を促進する
集団活動による「横の統制」を促進し集団基準を高めることで、メンバーとの信頼関係が持続する
②フィードバックは正確かつ即時に行う
内省が促され、成長し続けることができる
③一人ひとりの、誰かの役に立ちたいという「お役立ちの意識や使命感」に働きかけ続ける
励ましや叱咤激励などを継続するとメンバーが自分で自分を動機付けられ、「お役立ちの意識や使命感」が深まる
④メンバーの心理的葛藤を除去する
適切な緊張と緩和のバランスを保ち、マンネリに陥らない関係を築くことで、共創関係を維持する
⑤リーダーが率先垂範する
リーダー自らが情報活用や知恵出しを率先垂範することで、チームの価値創造力や活気が高まる。
これらの打ち手によって、メンバーは改めて使命や仕事の重要性などを再認識します。向かうべき方向がより明確になり、仕事に張り合いが生まれます。
「他人関係」に陥らないために
各段階でのリーダーの打ち手が適切だと、信頼関係は強くなっていきますが、打ち手を間違えてしまうと「あのリーダーは信用できない人物だ」とネガティブに解釈され、何かと批判的な態度をとられたり、他人事のようにふるまわれたり、「あんなリーダーは相手にしたくない」とそっぽを向かれてしまいます。
ネガティブが高じて、不満分子のような状態になってしまうことを、「他人関係」と呼んでいます。このようなメンバーは、放っておくといつまでたっても「他人関係」のままです。不満分子を募り続け、チームの雰囲気をマイナス方向に引っ張っていくことにもなりかねません。
リーダーは自ら働きかけ、メンバーの閉じた心の扉を開かせる必要があります。
それには再度、第1段階の「関係促進」に戻り、新人に対する働きかけと同様に、「親近感を感じる対話のパイプづくり」からしっかりと行わなければなりません。
信頼関係の4段階を実践するメリット
誰しも「好意を持ってもらいたい、最高の関係性でいたい」と思うでしょう。理解し合い同志として共に成長し続けることができれば、成果にもつながりやすくなります。
今回ご紹介した信頼関係の4段階は、それぞれの段階の目的がはっきりしているので、まず「関係促進」ができればいい、次は「納得促進」だ、とゆとりある気持ちで1段階ずつ取り組めます。
リーダーにとってストレスが少なく取り組むことができるため、チーム運営と信頼関係づくりがよりスムーズにできるはずです。するとメンバーも当然ストレスを感じることが少なくなります。
この関係性を段階に従って進めていくことは、リーダーとメンバーの心に悪影響を与える「悪玉ストレス」を軽減しつつ、双方のメンタルパワーを向上させることができます。
上司と部下だけでなく、このような関係性が広がると、互いに強みと創造性を尊重し合い、世の中に役立っている誇りと喜びの実感が、業績向上へのさらなる活力を生み出し、「いきいきとした職場づくり」につながります。
※参考※