後継者問題に悩んでいます
ビジネスパーソンの悩み解決相談室 経営者編
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お悩み「経営を任せる人材の起用、育成について教えてください」
経営の後継者育成について、次のようなお悩みが届きました。
Q:「経営を任せる人材の起用、育成について教えてください」
現在会社のトップとして経営に携わっておりますが、世の中が目まぐるしく変革する中で経営陣強化の必要を痛切に感じております。
管理職としては優秀でも、経営に参画するとなれば、より大きな視点に立って会社の将来を考えなければならず、必要とされる資質はまったく違ってくるのではないかと思い始めました。
経営の後継者として、どのような人材を起用し、どう育てていけばよいのか、ぜひアドバイスをお願いします。
後継者問題はどのような企業でも重要かつ難しい問題です。
お悩みの方も多いと思います。
今回は、経営者に求められる条件をあらためて整理し、質問への回答とさせていただきます。
経済・社会・政治の動きはますます予測不可能な状況になっています。
このように先が読めない時代だからこそ、経営者には、経営の四原理を含んだ理念を背景とした明確な未来ビジョンを掲げ、そのビジョンの実現を通して、企業組織の本来の使命である、「お役立ちの結果として利益を上げ続ける(=社会貢献を果たす)」ことが求められています。
※経営の四原理(効率性・競争性・社会性・人間性)
経営者に求められる条件を5つの項目で整理してみました。
お客様の視点に立つことができるか
経営者には、「お客様の繁栄があってこそ、自社の繁栄がある」といった考え方に本気で立つことが求められます。
もし経営者が自社の利益だけを優先すれば、市場からはね飛ばされてしまうでしょう。
ハーバード大学教育学大学院教授で認知心理学の権威であるハワード・ガードナー氏は、「プロフェッショナルがいかに《まっとうな仕事を目指しているか。まっとうな仕事」とは、質が高く社会に覚するものであり、また他者の生活を向上させ、しかも倫理を踏まえたもののことである」とし、ビジネスマンにもこれを求めています。
まして、経営に参画するのであれば倫理を前提にお客様を起点とし、すべてのステークホルダー(利害関係者)から支持される仕事を目指さなくてはなりません。
経営者の考え方は会社の方向性そのものを決定づけます。さらに社内のリーダーシップにおいても大きな影響を与えます。
私心を捨てることができるか
経営者には、常日頃から私心を捨て、自らを犠牲にしてまでも、ステークホルダーから支持され続けるための経営に全力で取り組む覚悟が求められます。
経営に参画するのであれば、それまでの一従業員といった感覚を忘れて、徹底的に私心を捨てる必要があります。
もし己の好き嫌いで人事や仕事に当たれば、経営判断が狂い、経営そのものが成り立たなくなる可能性もあります。
経営者は、出資者から経営を委託され、全ステークホルダーから支持され続けるという責務を全うしなければなりません。
すべての判断の基準を「業績を上げ続ける」ことに置き、「私」ではなく「我々」の立場で考えて行動する必要があるのです。
全体最適の発想ができるか
経営者には、部分最適ではなく全体最適で物事を判断し、行動することが求められます。
多くの会社では事業部制などの組織体制をとっており、事業部ごとに担当役員を置いていますが、この場合、担当部門にだけ目がいってしまうことがあります。
しかし、経営に参画するのであれば、部分最適ではなく全体最適の発想に立った上で、自部門はどうあるべきか、他部門との連携をどう取るべきかと考えることが必要です。
会社組織は全社の組織機能がフルにシナジー効果を生み出してこそ、総合力を発揮する組織としてのメリットが得られるのです。
先見する目(仮説設定=未来構想力)を持てるか
市場の求める需要が見えにくい今、需要を創造しなければ、企業活動そのものが先細りすることは明白です。
経営者には、お客様のその先の市場の未来を考察する上でも、「お客様の繁栄があってこそ、自社の繁栄がある」の考えをベースに、単に現在の市場だけを見るのではなく、常日頃からグローバルかつ未来に向けて、社会(人口・雇用など)・経済(為替・金融政策など)・政治(財政政策・金融政策など)・自然(地球温暖化・エネルギー資源・天変地異など)の動きを見ることが求められます。
こういった視点に立つことで、既成概念にとらわれない「価値創造のひらめき」が生まれ、そこに仮説が立ち、お客様のその先の市場の需要創造の種を拾うことが可能となるのです。
先見する目が仮説設定を可能にし、そこから未来を構想する力が生まれます。これらは、経営者として会社組織の舵取りをする上で必要不可欠なものなのです。
道を定める勇気と実現力があるか
経営者には、未来に向けての方向性(ビジョン・方針)を、「当社にとって本当に正しいことなのか」と自らに問いかけた上で決断し、なおかつそれを実現することが求められます。
未来を構想するだけでは、単なる理想像(絵に描いた餅状態)に終わり、結果的に経営者の使命は果たせなくなります。
方向性を打ち出したら後は現場に任せればよいというものではなく、必ず実践に向けての道づくりを行う。すなわち、的確な決断を下し、実行計画をつくることが必要です。
経営者は実践者でなければなりません。自ら決断したビジョン・方針は、「お役立ちの結果として利益を上げ続ける(=社会貢献を果たす)」ために、必ず実現しなくてはならないのです。
経営者に必要な条件を、以上の5つの項目に整理しました。
後継者起用の判断基準として、また、指導の指針としてご活用いただければ幸いです。
*本原稿は、株式会社ジェック「行動人」439号から転載・加工いたしました。