やる気を引き出す強制力が強い組織をつくる!
ビジネス演習室 初級管理者編
最近の傾向ですが、マネジメントの責任について、またメンバー指導の重要性などに対する知識の豊富な方が増えています。
グループワークの発表など、内容が大変論理的でわりやすく、完成度の高さに驚かされます。
ところが、本質理解の度合いを確かめようと思っていくつか質問をしてみると、どうもまだ知識レベルに留まっており、見識レベル(本質理解)には達していないケースがよくあります。
例えば、「現場でマネジャーが打ち出した方針・戦略とは違う方向で、自分なりに頑張って成果を出そうとするメンバーがいたとしたら、どう対処しますか」と尋ねてみると、
「方針と違っても業績さえ上げていればいいから、特に改善指導はしない」とか、「方針にわかりにくい部分はなかったのか確認してから、もう一度お願いしてみる」という答えが返ってきました。
中には、「昔とは違って個性を尊重しないとやる気が出せない世代なので、自分のやりたい方法で取り組んでもらう方がモチベーションも下がらず成果も期待できる」という意見すら出てきます。
他にも「期末のメンバーの評価の際に、業績が悪いからという理由で評価を下げると、納得しないメンバーが出ることが予想されます。
それでも評価を厳しくすべきですか」と質問すると、「景気の悪い時代だから本人の仕事に対する姿勢さえまじめであれば、評価を下げない方が良いと思う」というような答えが多く返ってきます。
ご存じのように、このような温情主義的な経営や民主主義的経営、まあまあ主義的リーダーシップのままでは方針・戦略で組織を束ねることができず、結果としてライバルに勝つための組織として成長させることはできません。
市場環境が変わらない限り、自力で業績低迷から脱却することは難しいでしょう。
X理論的な「強制力」とY理論的「強制力」
以前、ミドルマネジャーの研修をオブザープしたある経営者の方から、次のように言われたことがあります。
「メンバーに好きなようにやらせるのにリーダーシップなんて要らない。メンバーが嫌がることをどれだけやらせるかがリーダーの手腕というものだ。強制力だの何だのと、のんきなことを考えていたら会社はつぶれてしまう」
この意見に共感する経営者も多いでしょう。
P・F・ドラッカーも「自ら努力しない人の成長にまで企業が責任を持つ必要はない」(『現代の経営」ダイヤモンド社)と言っています。
さらに、Y理論のD・マグレガーも「リーダーには強さが肝心である。権限も場合によっては完璧な方法となり得ることもある。大多数のメンバーの反対を押し切って、一方的にリーダーの信念を貫かなければならないこともあれば、成否の予測がつきにくい問題に対して、重大な決定を下さなければならないこともある。人間関係さえうまくいっていれば、社内の問題はたいてい平和的に解決できると考えるのは大きな間違いである」(企業の人間的側面産業能率大学出版部)と述べています。
このように、温情主義や民主主義的経営を理由に強制力を発揮しようとしないマネジメントの在り方がY理論なのではありません。
「強制力」は、イコール「X理論」ではなく、Y理論にも強制力の発揮されるべき時があるのです。
Y理論的強制力を実践するための環境を整える~チェックリスト
まず、Y理論的強制力の実践のために不可欠なのは「メンバーの自己責任意識に訴えて、嫌でも頑張らなくてはならないという自覚を持たせる環境を整え、実際に目標を達成させることがリーダーの責任である」という信念に立脚することです。
では、その望ましい環境条件を5つご紹介しますので、ご自身の現状分析にお役に立てれば幸いです。
《Y理論的強制力実践における環境条件 チェックリスト》※□の項目がチェックポイントです。
1)グループの目標と個人の目標が統合(お互いに納得)されていること
□ 期初の目標統合対話、または期中の目標統合対話が実施されているか
□ その際に、全社方針・戦略を自部門の方針・戦略として具体的に落とし込んでいるか(単なる数値目標だけを押し付けていないか)
2)上下が信頼し合えるような「もっともだ」という雰囲気が職場にできていること
□ リーダー自身が方針・戦略に対して、口先だけの評論家にならず、率先垂範できているか
□ 皆で決めたことを最後まで成し遂げようと努力しているか
3)上司から好かれている、面倒を見てもらえているという安心感をもたせること
□ メンバー一人ひとりの強みを、仕事の成果に結びつけられているか
□ 一緒に考えたり、仕事の失敗は成長の土台であると、背中を押してあげているか
4)正直者がばかをみない職場であること
□ 遅刻や納期遅れなどの規律違反がある場合、きちんと注意しているか
□ 注意の際に、性別や業績の良し悪しで差別していないか
5)高い目標を達成した者や、運命共同体(会社)に大きな貢献をもたらした者が、物質的にも精神的(特に高次の欲求)にも報われる体制ができていること
□ 定期的に成功事例発表会や表彰式を通じて、現場成果をとことん褒めたたえているか
□ 個人の成績だけでなく、チームの業績への貢献度が高い人への評価を大きくしているか
※上記チェックリストのダウンロードは>>>こちらから
以上を踏まえ、日ごろのマネジメントの現場でセルフチェックをしながらリーダーとしての責任を果たしましょう。
*本原稿は、本原稿は株式会社ジェック「行動人」443号より転載、一部加筆しました。