現代のマネジャーが直面する感情労働
マネジャーにとって、感情労働は避けられない現実となっています。業務上の負担だけでなく、部下や上司とのコミュニケーションでどのように感情を扱うかは重要なスキルです。今回は、感情労働の定義やその影響、マネジャーがとるべき具体的な対策について考えます。
感情労働とは
感情労働は、1983年に社会学者アーリー・ホックシールドによって提唱されました。「相手に感謝や安心の気持ちを喚起させるような、公的に観察可能な表情や身体的表現をつくるために行う感情の管理が必要な労働」が感情労働であると定義されています。感情労働は、職業や状況にふさわしい言動が求められ、常に自分の感情を管理しなければいけない労働とも言えます。
ホックシールドが感情労働の代表的な職業の一つとしたのは、航空会社の客室乗務員です。
近年ではサービス産業が拡大していることや、顧客満足度の向上を追求する傾向が強まっていることなどもあり、接客業、企業のクレーム対応部署やカスタマーセンターのオペレーター業務、コールセンターの電話営業なども該当します。そして、いまやマネジャーの仕事も感情労働化していると言えます。
マネジャーの感情労働
マネジャーの重要な役割の一つは人材育成です。部下一人ひとりの状況やレベルに合わせて、指導内容、コミュニケーションの取り方を配慮しているマネジャーは多いのではないでしょうか。
そして、マネジャーは、チームを統率する立場であるため、部下の士気を高めるためにモチベーションを上げたり、時には不満を抑えたりすることが求められます。また、自身の上司と部下の間で橋渡し役を果たすことも多く、互いのストレスを和らげる役割も担っています。
そういう意味では、マネジャーは、上記の定義にあるような感情労働が必要と言えます。
感情労働の影響と対策
マネジャーが感情労働を適切に行わないと、職場の風通しが悪くなったり、人間関係の悪化を招くこともあり、さらに感情労働を強いられることにもなりかねません。
しかし、感情労働が続くと、やがて自分の感情と他人に表現する感情が乖離し、感情的な疲労感に繋がることがあります。これが長期化すると、バーンアウトやメンタルヘルスの問題に発展する可能性があります。
そこで、感情労働を軽減するための対策としては次のようなものがあります。
・マネジャー自身が、自己管理スキルを上げる。
例えば、定期的に自分の感情を振り返り、必要に応じてリフレッシュする時間を確保することが重要です。
・チームメンバーとのオープンなコミュニケーションをとり、相互理解を深める。
・組織として、マネジャーが感情労働を強いられる状況を軽減する支援体制を整える。
例えば、トレーニングやカウンセリングの機会を提供する、業務の負荷を分散させる、感情労働に対する認識を高める、などです。
しかし、そもそものスタンス(考え方)が変わらないと、「リフレッシュする時間を確保しよう」としても、実際にはその時間がリフレッシュ時間になっていない、ということもあり得ます。
よくあるマネジャーのスタンス(考え方)
感情労働がネガティブな影響をもたらすマネジャーの行動の奥にある考え方は次のようなものがあります。
マネジャーとして、「とにかく自分が我慢すれば、職場はうまくいく」、
なぜなら、「感情を表に出すと部下に弱さを見せることになり、職場の士気が下がる」。
この根底には、「マネジャーは、感情を押し殺してでも、チームの安定や業務の進行を優先すべきだ」という考えがあります。
このような考えに固まっていると、なかなか行動は変わりません。まずは次のような改善策を実践してみることが第一歩です。
行動しているうちに「あ、これでいいんだ」と徐々に考え方を変えていくこともできるからです。
改善のヒント
➤どのような感情を抱いたかを客観的に振り返る
感情に気づき、それを表現することがネガティブなことかどうかを理解するために、感情日記や週次での簡単な自己振り返りを実施してみましょう。
感情を理解し、それを言葉で表現するスキルを身につけましょう。
➤率直な意見交換をする
感情のままに声を荒げたり、取り乱した行動を取ることは、部下に不安や不信を与えることもあります。しかし、「どう感じたか、どのような感情を抱いたか」を共有し合うことは、マイナスではなく率直な意見の交換につながります。また、マネジャーが我慢していると結局は部下も遠慮してしまい、職場の士気につながらないこともあるでしょう。マネジャーが思う以上に、部下はマネジャーを見ています。
➤相互コミュニケーションを活性化する
チームでオープンな感情の共有を奨励する機会を設けましょう。 例えば、感情スケール(気分を数字や色で表現する仕組み)を用いて日々の感情を共有する場を設定してみましょう。
マネジャーのスタンス(考え方)を変える
「自分の限界を見据え、適切なタイミングで助けを求めたり、休む判断をすることで、長期的にチームに貢献できる」。なぜなら、「自分が健全であれば、冷静な判断と感情的な余裕を持ってチームをサポートできる」。つまり、「自分の感情や状態を大切にすることで、チームに良い影響を与えられる」という考えです。
「貢献するために耐え続ける」という考え方から、「支え合いや協力があってこそ組織として成果が出せる(成果に貢献できる)」に変わることがポイントです。
まとめ
感情労働に対する理解を深め、適切な対策を講じることで、その負担を軽減することが可能です。マネジャー自身の自己管理能力のスキルを高めるとともに、ポジティブなスタンスに変わることが大切です。
そして、組織は、中核であるマネジャーが感情的な疲労感でメンタル不全に陥ることがないような支援として、 より健全な職場環境を築く仕組みづくり、組織文化の醸成が必要です。
これにより、マネジャー自身の幸福度も高まり、組織全体のパフォーマンスも向上することが期待されます。