「安全最優先が当たり前」をつくるために
コロナ禍と言われる環境になって、外出するとほとんど全ての人がマスクを着用している。
マスク着用の重要性を理解して着用している人が多いとは思うが、「マスクをしないと白い目で見られるから」という声も案外聞く。
これは、世の中に「外出時にはマスクを着用するのが当たり前」という空気ができたということだろう。
労働災害や不安全行動などの事故にも、この「当たり前の空気」というのが大きく影響しており、安全文化を醸成するというのは、すなわち「安全最優先が当たり前」の空気をつくることだ。
「外出時にはマスクを着用するのが当たり前」という空気の醸成にコロナの恐ろしさへの理解が進んだり、行政機関がマスクの着用を奨励したりするなどの様々なことが影響しているように、安全最優先の価値観も、国際安全規格に則った対策を含め様々な因子によって醸成されていく。
定量調査の仕組み
そして、その主要な因子とそれぞれの相関関係を整理して、組織の安全文化の状態とそれを向上させるポイントを見える化したのが慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科によって開発された「安全文化診断」である。
この診断は、リスクマネジメントのスペシャリストである高野研一教授が中心となって開発したもので、安全文化に関する様々な知見を「組織統率」「責任関与」「相互理解」「危険認識」「学習伝承」「作業管理」「資源管理」「動機づけ」の「安全文化の8軸」に総括・整理してあり、組織の安全文化を向上させる上で押さえるべきポイントが具体的に示されるようになっている。
組織の安全文化は「安全文化の8軸」の相関関係によってつくられるので、同じような不具合現象が起きている組織でも、診断をしてみると不具合現象の原因や手を打つポイントが違う場合が少なくない。
例えば、同じ「現場のマイナス情報がマネジメント層に報告されない」といった不具合現象でも、ある組織では「相互理解」が不十分で現場のメンバーに「マイナス情報を報告すると上司に責められる」という意識が強いことが主な原因だが、別の組織では「作業管理」が弱くて報告の仕方(「どこに、どう報告したらいいのか」)が周知されていないことが主な原因になっているといったことはままある。そして、原因が違えば打つ手のポイントも当然違ってくる。
「外出時にはマスクを着用するのが当たり前」という空気がコロナ禍になってすぐにできたわけではないように、安全最優先の空気をつくるためには、適切な施策を継続的に講じていく必要がある。
したがって、今回ご紹介した「安全文化診断」などを活用して組織の安全文化の状態とそれをつくっている原因を定期的に把握して、ポイントを押さえた適切な施策を継続的に講じていくことが、組織に「安全最優先の空気」をつくり、それを根付かせるために大切なことになるのではないだろうか。