自動認識技術、産業用ロボット、産業用コントローラなどの技術をベースに、自動車業界以外のさまざまな分野で事業を展開している株式会社デンソーウェーブ。
実務を題材にした戦略会議を通してお客様にソリューションを提供し、需要創造型のビジネスモデルを実践しています。これまでお客様に提供してきたソリューションとはどのようなものなのか、戦略会議を通して営業部門の意識はどう変わったのか、今後の展開は…。社長の中川様とマーケティング本部長の黒部様に、具体的にお聞きしました。後編です。
------ 御社では、需要創造型の戦略会議を開いているというお話でした。これまでにも、需要創造を実現した成果もおありだったかと思います。中川社長のデンソー様ご在籍時代と、デンソーウェーブ様でのお取組みで、具体的にどのような需要創造の成果があったのか、教えていただけますか。
①自動車のレーザー式自動追尾技術を応用した防犯システム
中川 動いている物体をレーザーが察知して防犯カメラが作動し、同時にその情報をスマートフォンに知らせる防犯システムを、自動車の自動追尾システムを応用して開発しました。システムを検証するために営業担当部長の家に取り付けたところ、ほんとうに泥棒が入って、逮捕につながりました。公共施設のテロ対策や文化財保護などの目的で導入が進んでいて、今後は踏切事故防止や高速道路の逆走防止などでも役立つと考え、営業活動を広げています。
②タブレット端末を使った地域コミュニケーションの活性化
中川 有線放送のハードを維持するのはとてもコストがかかるため、山間部などの過疎エリアにはサービスを提供する事業者が不在です。そこで、役場からの緊急情報などを住民に知らせる新たな手段を確立しようというコンセプトのもと、タブレットを使うアイデアが社員から出されました。実際に半年間、担当者が山間部の集落で暮らすなどの実証実験を行い、システム開発につなげました。実証実験でわかったことは「何でもできるは、何にもできない」でした。タブレットの多機能性は住民の皆さんに混乱を招いてしまい、回覧板機能、連絡機能、カレンダー、訃報通知、この四つがあればよいことがわかりました。現在、全国28カ所の地域でシステムが採用されるなど、デンソーの新事業の柱の一つになっています。
③自動車のエアコン技術を使ったアグリビジネス
中川 農業ハウスの内部を、作物に理想的な環境に保つには、これまでは経験や勘に頼っていました。そこで社内を農業ハウスに、人をトマトに置き換えて、自動車のエアコン技術を応用したコントロールシステムを開発するアイデアが出されました。実際に、豊橋に農業ハウスと設備を建設して実験を行ったところ、初年度で48トンの収穫がありました。通常この規模のハウスだと平均で20トンといわれていたため、続々と見学者が訪れ、近隣だけでも5台購入していただきました。
④QRコードを使ったホームドアシステム
黒部 電車が入ってくると、そのタイミングに合わせてホームドアが開く。従来方式では、車両とホームの双方に、無線で連動して開閉する装置を設置するものですが、例えば、複数の鉄道事業者が乗り入れる駅では相互連携に課題を抱えておられました。そこで、東京都交通局様と「QRコード・ホームドア制御システム」の共同開発を行いました。電車の車体にQRコードを付けて、入線するとホーム側のカメラで読み込んで開閉する仕組みです。QRコードから編成・ドアの数・開閉状況等を読み取りホームドアを適切に制御する為、相互連携も容易になりました。現在、全国の鉄道事業者様からも問い合わせをいただいています。
⑤RFIDによる顧客満足度の向上
黒部 ある大手アパレルメーカー様から、顧客満足度を上げたいというご相談を受けました。詳しくお話をうかがうと、在庫管理の精度を上げて品不足を防ぐこと、お客様のレジ待ちを解消すること、この2点をクリアすれば満足度が上がることが分かりました。そこでRFID(商品に付けられたRFタグを非接触で読み取るシステム)で店舗すべての衣服データを読み取り、品薄になればすぐ発注できるように改善しました。お客様がレジに持ってきた商品も一瞬で読み取ることができるため、レジ行列が激減しました。開発の際は他の電波の干渉を受けないか、店中の商品を正確に読み取ることができるのか…社内に疑似店舗スペースを作り衣服を吊るして実証実験を行いました。現在、この分野で国内6割のシェアを占める事業に成長しています。
------ どれも素晴らしい成功事例だと思います。戦略会議でお客様の課題を掘り下げて、解決策をみつけて提案する。2018年以降の戦略会議に参加している営業担当者自身にも変化は現れましたか?
中川 驚くほど現れています。先日「Wave Best Practice Contest」という営業部門の事例発表会がありました。これはアセスメントではなく、とにかく成果を発表するというものですが、発表者の9人が9人とも素晴らしい内容でした。考え方、持って行き方、仕事のつかまえ方、そして成果。お客様視点で考え、何をすべきかを的確に提案していたため、すごい成長だなと思いました。
黒部 お客様の表面的な課題に飛びつくのではなく、もう一歩深く聞いていく風土ができてきたと感じています。例えば、お客様からタブレットが欲しいというご要望があったとします。それを売るのは簡単ですが、どうして工場でタブレットが必要なのか、背景を聞いていく。すると全然違う解決方法があるわけです。結果として商品を売ることになったとしても、そこまでの軌跡が大きく変わった。そういう発表が多かったと思います。
------ 2018年から本格的な変革の取り組み、翌年にはすでに大きな成果が出て、人材も育っています。短期間で変革を進めることができた秘訣のようなものはありますか。
中川 「やりたいと思うことがあるのなら、やってみろ」というデンソーの風土だと思います。過疎地域のコミュニケーションをタブレットで活性化するという提案も、3人の若手が言い出したことです。ぜひやらせてくれということで、Goサインを出しました。トマトの農業用ハウスを建てる時も、うまくいくかどうかわからない事業に会社(デンソー)が出資しています。新規事業を進める上で一番いけないのは「社長にいわれたからやっている」という姿勢です。何かやりたいことがあり、何のためにやるんだということをちゃんと説明できれば、進んで構わない。そういう風土がデンソーにはあります。戦略会議を通して、デンソーウェーブの中でその風土が花開いたということだと思います。
黒部 お役立ち(人々の役に立つこと)が、我々の存在意義(プレゼンス)。
中川 その通り。我々がやらなくてどこがやるんだ!という意識がデンソーのDNAみたいなものです。実はアグリビジネスには続きがあって、「藻」を栽培しています。工場から排出される二酸化炭素をある種の「藻」に食べさせて、そこからバイオ燃料を取り出す。今、パリ・ダカールラリーのトヨタ車は、一部この燃料で走っています。二酸化炭素を減らして地球環境を守る、脱石油の新燃料を開発する、これはデンソーの社会的責任だということで、デンソーの社長に賛同してもらって大規模培養実験もはじめています。
------ 今後の変革の方向性を教えてください。
中川 次は、課長になる前くらいの若手営業担当者、つまり現場で飛び回っている社員たちに、需要創造型マインドを広げていきたいと思っています。正直な話、営業部門は大分意識が変わってきました。これからは、技術や管理部門、サービス部門を巻き込み、変革の第2ステップとして、需要創造型の戦略を推進していきたいと考えています。すべての部門で需要創造型という意識を共有することができた時、他社が真似できないソリューションビジネスを展開できると確信しています。
取材を終えて
「本気の作戦を考えろ。投資はする。責任はオレが取る」「やりたいと思うことがあるのなら、やってみろ」など、もともと培われているデンソー様の自由な風土を後押しする中川社長の挑戦と覚悟、それに応える社員の皆様の本気のお取り組みが、社会を動かすイノベーションを次々と起こしていらっしゃるのだと感じました。
また、「お役立ちが、我々の存在意義」とおっしゃる黒部本部長の営業部門改革も、着実にお客様との関係性を深め、共創し、新たなイノベーションの芽を創っていらっしゃる様子がうかがえました。
ありがとうございました。
<株式会社デンソーウェーブ>
株式会社デンソーウェーブ “花かつみ園”から本社を臨む
●本社 愛知県知多郡阿久比町大字草木字芳池1番
●資本金 4億9,500万円
●従業員数 1,157名
●主な事業 自動認識装置、産業用ロボット、プログラマブルコントローラ等の機器やシステムの開発・製造・販売
(2019年3月31日現在)
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