自動車関連製品の開発・製造で知られる株式会社デンソー。そのグループ企業である株式会社デンソーウェーブは、QRコードに代表される自動認識技術、産業用ロボット、産業用コントローラなどの技術をベースに、自動車以外の新規分野で事業を展開しています。
現在、同社では中川社長のもと、「モノ売りからコト売り」を推進するためのさまざまな社内改革・意識改革を行っています。なぜ変革が必要とされたのか、それはどのような試みなのか、代表取締役社長の中川様とセールス・マーケティング統括本部 マーケティング本部長 兼 マーケティング戦略部長の黒部様にお話をうかがいました。今回は、その前編です。
------ 御社の事業内容を教えてください。
中川 デンソーウェーブは、自動認識、産業用ロボット、産業用コントローラの3分野を中心に事業を展開し、さまざまな形で世の中の生産性向上に貢献する会社です。私たちの会社を代表する商品の一つがQRコードで、1994年、当時のデンソーの開発部門(現デンソーウェーブ)が開発しました。バーコードの何倍もの情報量を持ち、読み取りスピードも早いQRコードを、ライセンス料不要でオープン化しました。
------ 企業理念はどのようなものですか?
中川 企業理念は「社会の生産性向上に深く、広く寄与し、人々の幸福に貢献する。」というものです。我々デンソーウェーブは、自動車部品メーカー・デンソーのモノづくりの現場を支えてきた技術で、より直接的に社会に貢献していこうという考え方です。QRコードのオープン化も社会貢献につながった事例の一つだと捉えています。
------ 御社では、人材育成など、さまざまな変革を進められているそうですが、なぜそのようなことが必要になったのか背景を教えてください。
中川 私がデンソーウェーブに就任する前のデンソーでは、リーマンショックの経験を踏まえて、これからはクルマの販売動向に左右されない事業の柱が必要だということになり、新規事業を推進する部署が生まれました。自動車一筋だった私がなぜかそこのトップに就任しました。ジェックさんと出会ったのもちょうどその頃でした。しかし当時は人材育成という段階ではなく、新しいビジネスモデルを考え出さなければならない時期でした。
その後2016年、私がデンソーウェーブの社長に就任し、この会社を舞台に新しいビジネススタイル「モノ売りからコト売り」に取り組むことになりました。ところがデンソーウェーブという会社は、「プロダクトアウトでお客様に商品を提案し、それを納品したら仕事は終了」という事業スタイルでした。私が進めようとしていたビジネスモデルを実現するには、この姿勢では不可能だったため、社内変革に取り組むことになりました。
------ 新しいビジネスモデルとは、どのようなものですか?
中川 一言でいえば、需要創造型のビジネスモデルです。ロボット等の商材は、新しい製品に「置き換え」という形で需要が起こります。つまり7年に1度、10年に1度など、取り換え時期がこないと売上は上がらないわけです。売上を飛躍的に伸ばすには、お客様から声がかかるのを待っているのではなく、自ら商圏を広げていく必要がありました。
しかし例えば、これまでコンビニなどの店舗で使われていたバーコードスキャナーを運送会社に売り込むには、どんな機能が必要で、それによって何が改善されるのか、自分たちで考えて創造していかないと営業に行くことができません。産業用ロボットも、ロボット単体をお客様に提案するのでは意味がなく、ロボットの前後工程をどのように変えて、そこにロボットが入ることで、生産性がどこまで上がるのか提案できないと意味がないわけです。
我々は自動車業界のことは熟知していましたが、それを新たに例えば食品業界に持って行く、薬品業界に持って行くとなった時、プロダクトアウトで商品を届ければ良いといった発想では話を聞いてもらえない。新しい分野に自分たちの商品・技術を売り込むための「創造力」「提案力」を育てることが急務でした。
------ 社員の創造力を育てるために、どのようなことから変えていったのでしょうか。
中川 まず、デンソーで新事業を推進する部署を担当していた時には、職場の景色を変えることから始めました。自席型からフリーアドレスに変え、タイムリーな情報交換やコミュニケーションの活性化を図りました。しかしフリーアドレスを放っておくと、いつの間にか「島」ができて近くにいる人が固定化されてしまったり、自分の居場所がないと悩む社員も出てきたりします。そこで、パーソナルスペースを設け、社員の心の負担を軽減する工夫もしました。また、「創造の間」という畳部屋を設けてコタツを入れ、寝っ転がって考え事をしてもよい場所にしました。
------ 畳とコタツですか。眠ってしまいそうですね。
中川 眠っている社員もいましたよ(笑)。でもいいんです。問題なのはむしろ「就業中は寝ないようにしましょう」みたいな貼り紙を、いつの間にか誰かが貼ることです。自由にしていいと言っているのに(笑)。今後は、デンソーウェーブでも同じ考え方でオフィスリニューアルをし、社内にライブラリーやカフェスペースを作りたいと思っています。
------ 中川社長が社内を急激に変えようとしている。その姿勢を見て、どのように感じましたか。
黒部 本気じゃないだろうと思っていました(笑)。デンソーウェーブは、新しいワークスタイル・新しいライフスタイルを提供する会社になる。2025年には、売上高を2018年度比 数倍に成長させるという長期構想を聞かされても、どうせ絵に描いた餅だろうと…。ところが社長から、「本気の作戦を考えろ。投資はする。責任はオレが取る」と何度もいわれて、もしかして本気かなと思うようになりました。
------ 次はどのように変革を進めたのですか?
中川 営業部門の意識改革を行うため、定期的に戦略会議を開きました。幹部社員は、中長期構想に基づいて、マーケティング戦略や人材育成戦略などのイノベーション戦略を作りました。営業所長や係長などのミドルマネジャーには、顧客ごと、業種ごとのマーケティング戦略に的を絞り会議を行いました。
黒部 以前はベース積み上げ型の戦略だったので、会議といえば「売上はどう?なんで達成できなかったの?」という内容がほとんどでした。しかし、プロダクト・ライフ・サイクルでいえば、これまで売れてきていたものは、導入期・成長期を過ぎ、成熟期に入っており、衰退期に入ることも予測されていました。そこで、戦略の核に「需要創造」を置き、お客様の問題点をどう解決していくかを話し合う場に変えたことで、あらゆる事業で需要創造のサイクルが回りはじめました。2017年からジェックさんにお越しいただいて、新たな戦略会議が始まったのは2018年度からのことになります。
------ 最初に営業部門から取り組みを始めた理由はなんですか?
中川 需要創造型のビジネスモデルで、新しい分野に進出するぞ!といくら口で言っても、仕事が実際に入ってこなければだれも本気にできないからです。まず第1ステップとして、営業部門がしっかり仕事を取ってくるようになり、それから管理部門や技術部門、サービス部門を巻き込んでいくという考え方です。
------ 戦略会議の中身を変えただけで、社員の意識が変わりましたか。
黒部 大きく変わりました。会議は実務が題材だからです。幹部の戦略会議では、人事育成や他部門との連携をどうするか、戦略案に対して皆でアドバイスを行い実行に移しました。ミドルマネジャーたちのマーケティング会議では、顧客のニーズ分析と、自社の提供価値をどう結びつけるのかを立案し、実際にお客様の現場に行ってぶつけました。その反応をベースに、トライ&エラーを繰り返しながら、営業の手順・考え方を実務の中で変えていきました。戦略会議にはジェックさんにも加わってもらい、戦略に対する意識や思考方法などの面からアドバイスをいただきました。
中川 戦略会議は人材教育の場でもありますが、知識を得るための教育ではなく、ジェックさんにご協力いただいて「共創型イノベーションで、実務を成功に向かわせるための創造力を鍛える」という手法にしたわけです。
(次回に続きます)
<株式会社デンソーウェーブ>
●本社 愛知県知多郡阿久比町大字草木字芳池1番
●資本金 4億9,500万円
●従業員数 1,157名
●主な事業 自動認識装置、産業用ロボット、プログラマブルコントローラ等の機器やシステムの開発・製造・販売
(2019年3月31日現在)
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