発電プラント、エネルギー、インダストリー、電子デバイス、食品流通などの各分野でさまざまな電機機器を提供している総合電機メーカーの富士電機株式会社。2023年に創立100周年を迎える同社では、社内のフィールドサービス機能を統一して「フィールドサービス統括部」を誕生させるなど、大きな組織改革を行っています。従来型の受け身の「保守点検サービス」から脱却して、これからの100年を生き残るために。フィールドサービス統括部で進められているさまざまな「変革」について、統括部長の梶原清貴様と、事業企画部部長の石松洋志様にお話をうかがいました。今回は、その前編です。
------ 御社の事業内容と経営理念について概要を教えてください。
梶原 富士電機の事業内容は非常に多岐に渡っています。発電プラント、エネルギー、インダストリー、電子デバイス、食品流通の各分野で、産業を支えるさまざまな電機機器を製作しています。例えば、モータやタービン、電車の制御装置、計測機器、半導体や自動車など、どちらかというと縁の下の力持ち的な役割の会社だと思いますが、一般の方がよく知っている製品としては、セブン‐イレブンのセブンカフェのコーヒーマシンを開発・製造したのが当社です。
経営理念は「豊かさへの貢献 創造への挑戦 自然との調和」、スローガンが「熱く、高く、そして優しく」です。熱く、高くという言葉は企業の方向性としてわかりやすいと思います。では「優しく」とはどういうことなのか。この言葉には、家族でも社員でもお客様でも「困っている人がいたら手を差し伸べる。それが富士電機だ」という思いが込められています。
------ 会社全体で進めているビジョンについて説明していただけますか。
梶原 富士電機は2023年に創立100周年を迎えます。そこで2023年までの5年間に達成すべき目標として「売上1兆円、利益率8%」を掲げて、継続的に成長するための基盤作りを進めています。いわゆる中期経営計画ですね。
------ 中期経営計画を達成するために、変革が必要になったということですか?
梶原 そうですね。でも、それだけではありません。変革の取り組みについてお話しする前に、まず私たちが所属しているパワエレシステム インダストリー事業本部のフィールドサービス統括部(以下、FS統括部)について説明したいと思います。富士電機がお客様に提供しているさまざまな電機機器をお客様への納入時の試験調整からその後の設備運転における24時間・365日保守点検するのがフィールドサービス事業です。その前身は機能分離子会社でしたが、2011年度に富士電機グループの経営改革の中で製販・サービス一体の企業体となり、2018年度に社内で別の組織であった試験調整機能とサービス機能を統合し、現地機能のリソースを活用してフィールドサービス事業を拡大するFS統括部を設立しました。縦割りではなく、サービスというキーワードで会社を横串で刺すような組織になっています。
------ 人員規模はどのぐらいですか?
梶原 FS統括部と全国各支社のサービス部門の合計では、1,500名規模(社員1,100名、協力会社400名)になります。売上1兆円を目指すにあたり、我々の部も売上1,000億円を目指してほしいと言われています。現在のサービス部門の売上が約600億円ですから、これを1,000億まで伸ばすには、これまでと同じことを続けていたのでは不可能です。そこでジェックさんのご協力のもとで、組織の変革に取り組むことにしました。富士電機全体の話ではなく、FS統括部の「変革への取り組み」です。
------ 変革への取り組みは2023年の目標を達成するためだけのものではないとのお話でしたが、それはどういう意味でしょうか。
石松 それまで別々の組織にいたため、社員間でコミュニケーションがうまくいっていない部分がありました。知っている人とは話すけれど、知らない人とはあまり口を聞かない。マインドがバラバラでは成長することもできません。数値的な目標云々の前に、まず皆で共有できる風土や文化、ビジョンを築きたい。そういう根本的な部分を含めての変革です。
------ 新しい組織としての共通マインドを作りだすために変革が必要だったということですか。他にはどのような課題がありましたか。
梶原 ビジネスモデルの問題ですね。保守点検を担当するサービス部門は、基本的には受け身のビジネスモデルです。お客様から修理などの依頼が来ると、現場にかけつけ解決する。そこから脱却して1段階も2段階も上げていくには、FS統括部の全社員がお客様の市場に精通して需要を作り上げていく…いわゆる「需要創造型」のビジネスモデルを築いていかなければなりません。それが大きな課題でした。
------ サービス部門が需要創造型のビジネスモデルに切り替えるのは大変なことだと思います。どのようなビジョンを示したのですか。
石松 私たちはこのビジネスモデルを「まるごとサービス」と呼んでいます。設備が老朽化したり、メンテナンスが必要になったりすると、お客様は機器ごとにメーカーを呼んで整備します。お客様の立場になれば、機器単体だけでなく、設備全体あるいは施設や工場を全部任せることができればすごく助かるはずです。しかしそのような業者がいないので、仕方なく機器ごとにメーカーを呼んでいるわけです。富士電機は電機の総合メーカーを自負していて、実際、多種多様な技術をもっています。機器単体の専門メーカーと競合することなく、我々サービス部門の特徴を活かしていくには、この「総合」という部分で勝負していくしかないと考えました。そこで「工場を全部まるごと見ますよ」というビジョンを描いたのです。
------ まるごとサービスは今どれくらい実現していますか。
石松 まだまだ初期段階です。一般的にメーカーのサービスは自社製品しか対応しません。しかも、自分の専門の製品だけで、専門が違えば、隣にどんな自社製品があるかも興味がない。なぜなら、わからないし、たとえ修理しても自分の評価にならないからです。しかし、お客様からすると、せめて富士電機製品は全部見て欲しいと思うのが当然です。自社製品をすべて見るほどの技術力を持てば、次は「他社製品もみて欲しい」といわれるようになるでしょう。しかし実際問題として「全部修理できるようになってくれ」といわれても、フィールドサービスは「なんでそんなことするの?」となりますよね。まるごとサービスを実現するには、現場で働く社員の意識を変えていくことが不可欠でした。
------ 新しい組織として社員を1つにまとめるために、さらに「まるごとサービス」を推進していくために社員の意識変革が必要だったというお話ですが、最初はどのようなことからスタートされたのですか?
梶原 「人を育てたい」ということをジェックさんに相談しました。すべてはそこから始まりました。新組織がどうとか、中期経営計画がどうとかいうことまでは想定していませんでした。2023年になると現在の部長職は、年齢的にほとんど退職してしまいます。早急に課長たちを育てて、サービス部門を引っ張っていくようなリーダーにする必要がありました。
------ 課長職の人財育成というところから始まって、それが社員全員の意識改革が必要というところにまで広がった経緯とは?
梶原 課長たちを次世代のリーダーに育てたい。では次世代のリーダーってどんな人たちだろうか。2023年度の中期経営計画を踏まえて、サービス部門が向かわなければいけない方向性をいろいろ話し合う中で「需要創造型のフィールドサービス」という姿が見えてきました。先ほど石松が話した「まるごとサービス」がその1つです。需要創造型のフィールドサービスを展開するにはどうしたらいいのか。課長だけが変わってもできることではなく、全社員が変わらなければダメだ。そういう流れで、さまざまなプロジェクトを立ち上げて社員全員の意識改革を進めることになりました。
------ 課長だけが変わってもダメということに気付かれて、次にどのような手を打たれたのですか?
梶原 部長の意識を変えていくことにしました。課長が成長して素晴らしいアイデアを出すようになったとしても、部長たちが理解できなければフタをしてしまうと考えたのです。そこで部長以上の約30名全員を集めて変革の中心となる「FS変革プロジェクト」を立ち上げ、中期経営計画を見据えながら、FS統括部の将来像について議論しました。
(次回に続きます)
<富士電機株式会社>
●本社 東京都品川区大崎一丁目11番2号 ゲートシティ大崎イーストタワー
●設立 1923年8月
●資本金 47,586,067,310円
●従業員数 27,416名
●事業内容 変電や電源などに関わるパワエレシステムエネルギー、駆動機器や制御機器を取り扱うパワエレシステムインダストリー、半導体やディスクなどの電子デバイス、新エネルギーや火力発電などの発電プラント、自販機や店舗流通に関わる食品流通など、産業を支える電機機器の総合メーカー
(2019年3月31日現在)
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