変わり続けることができる社員づくりー行動理論の改革2ー
「行動理論改革モデル」を使って成長し続ける人財になる
前回、「行動理論改革モデル」の主にAの領域で、人の行動選択のメカニズムを説明しました。
うまくいかないときに、行動そのものを修正しようとしても、「頭ではわかっていても、気持ちや体が伴わない」ということはよくあることです。その際に、自分の行動理論(行動選択の判断基準)までも変えることで、行動を変えていくことが可能になります。
ここでは、この「行動理論改革モデル」を使って、どのように行動理論を変えて、行動変容を促すのか、つまり、自分自身を成長させ続けていくのかを、ご紹介します。
行動理論は可視化ができる
まず、「行動理論」の正式な定義を確認しておきましょう。
人に働きかける場合、 本人の思考プロセスと行動選択における判断を方向づけている、 その人なりの信念(心得モデル、因果理論、観)。 *「人」には自分、人々を含みます。 |
定義文の三行目に注目すると、行動理論の正体が、「その人なりの『信念』」であると書かれています。そして「信念」は、「心得モデル、因果理論、観」の三階層の構造になっています。
私たちは自分なりの信念に基づいて判断し、行動しているのですが、この「信念」というのは、本人が、自覚しているとは限らないというところが面白いところです。
本人は自覚していなくても、他人の眼から見れば、明らかに単なる「思い込み」「誤解」といわれる「信念」もたくさんあるということです。
そして、「行動理論(信念)」には、「心得モデル」「因果理論」「観」という三階層構造があり、各層は下図のような関係性があります。
この三階層の構造は、医学者である井上和臣氏や認知療法の権威であるジュディス・S・ベック氏らによる「認知行動療法」の「認知モデル」を背景としています。
「観」とは、「人生観」「仕事観」「組織観」などで、その人なりの「事実の認識の仕方」です。
私たちは、日頃それを自覚していないことが多いのですが、それぞれ自分なりの「観」を出発点として、物事を「○○とは、こういうものだ」と捉え(観)、だから「こうすれば、こうなるだろう」という因果関係を想定し(因果理論)、だから「こうする!(こうせよ!)」という結論(心得モデル)を持っているわけです。
この三階層に沿って、自分の考え方を整理してみると、何を判断基準にして行動を選択しているかが、よくわかります。
行動理論をモニタリングする
一旦形成された行動理論は、メタ認知を働かせることで、修正をすることができます。
あらためて「メタ認知」という言葉を説明しますと、「メタ(meta)」は「超える」という意味。そして、「認知」とは、「知覚」「思考」「感情」などの「心の働き」のことです。
したがって、「メタ認知」とは、「認知に対する認知」のことであり、感覚的な表現をすれば、「自分の心の働きを見たり修正したりしている、もう一人の自分(の心の働き)」のことです。
「メタ認知」の分類については、下図をご覧ください。
私たちは何か大切なことに取り組んでいる最中に、「今、自分は焦っているな」とか、「もっとリラックスした方がいいな」と考えている自分に気づくことがあります。このとき、私たちは自分の心の動きを自覚しているわけです。これがメタ認知の観察活動(メタ認知的モニタリング)です。
例えば、「こういうときは、私はだいたいうまくいく」と感じるときや、「どうも私は、こういうときに、同じような状況に陥ることが多いな」と感じたときは、メタ認知のチャンスです。前者の場合は、自分が認識していなかった成功パターンを生み出す行動理論が潜んでいるはずです。この行動理論を意識して行動をすれば、成功パターンの再現性が高まります。一方、後者では、自分の行動の傾向がマイナス効果に陥っている可能性がありますので、修正をする必要があるといえます。
具体的には、「自分が意識しないまま、行動選択の基準として信じ込んでいる行動理論はいったい何だろうか?」と自分に問いかけます(あるいは、上司や同僚・友人・知人からこういう問いかけをしてもらうことも有効でしょう)。このような問いかけをきっかけに、自分と向き合い、繰り返し自分の心の動きをつぶさに掘り下げていけば、「ああ、そうだったのか!」「自分はこれまで、こんな風に思っていたのか(思い込みだったのか)」と、自分の行動傾向を生み出していた根深い行動理論に、気づくことができます。
振り返るタイミングはいつでもいいのですが、心が満たされたとき、あるいは、心がざわついたときなど、心(感情)に動きがあったら、すかさず振り返る習慣をつけてみましょう。また、毎日、日記をつけて、出来ごととその時に湧いた感情を書きとめておくのも良い習慣です。
行動理論を修正する
では、行動理論を修正するにはどうすればよいでしょう(メタ認知的コントロール)。いくつかご紹介します。
例えば、行動理論の「因果理論」の「原因と結果」を入れ替えてみるのも一つです。「忙しいから(原因)、育成ができない(結果)」という今の行動理論(因果理論)を、「育成しないから(原因)、いつまでも忙しい(結果)」と入れ替えてみるのです。入れ替えるだけで、自分の思い込みから解放されることがあります。
あるいは、冒頭に述べたような、対比することわざを使ってみてもよいでしょう。
また、あの人のようになりたい、こういう人になりたいという目指す人が身近にいるなら、その人の行動理論を普段から観察したり、推察したりしておくのもよいでしょう。
ここで気を付けたいのは、誤っていると思われる中にも、正しい行動理論が存在することもあります。自分を全面的に否定せず、良い部分は素直にみとめ、それを伸ばし、変えたい部分もニュートラルにとらえ、変えていくことが大切です。
振り返るときも修正するときも、自分の中にある知識が、その質を左右しますから(メタ認知的知識)、豊富で質の高い知識を普段から学ぶ機会を持っておくと同時に、新しい行動を取るためのスキルトレーニングも行いましょう。
新しい行動理論を意識し習慣化する
ただ、行動理論を差し替えたといっても、つい慣れ親しんだ行動を選択したり、感情面で「そうはいっても…(あれは正論だけど、きれいごとじゃうまくいかないよ)」と思ってブレーキがかかったりするため、新しい行動が違和感なくできるようになるのはそう簡単ではありません。
そういう場合は、例えば「今日は行動はできなかったけど、その時に新しい行動理論が頭をよぎった」→「今日は、行動を意識して取ってみた(うまくいかなかったけど)」→「今日は、相手の反応が少し変わった」→「新しい行動を取るときに、違和感が減ってきた」など、毎日記録を付けて、自分の行動理論や行動・成果が確実に変わってきていることを可視化してみましょう。
このように、小さな変化や成功を積み重ねて、根気よく変えて、習慣化することが大切です。
以上、自ら成長し、成果を上げ続ける人財になるために、人の行動選択のメカニズムと、行動理論の改革手法を「行動理論改革モデル®」を使ってご紹介してきました。
今、世の中の変化のスピードは速く、未来像も描きにくい時代になってきました。その中で、グローバルな観点で動きを読み、自分で未来を描き実現できる人財が求められてきています。この「行動理論改革モデル®」を使って、柔軟に自分をみて、変えて、成長をしていきましょう。
ジェック『行動人』2006年5月号/2018.1大幅改訂/2019.2改訂