お客様からの反対が怖く思い切って提案できません
ビジネスパーソンの悩み解決相談室 営業パーソン編
《Q》お客様に反対されたら、そこで商説は終わってしまうのでは...
法人のお客様にオフィス家具や事務機器をお勧めする営業担当者となり、今年で3年目です。
過去2年間はあとちょっとで目標が達成できずに悔しい思いをしたので、今年は是が非でもと無我夢中でやってきた結果、例年になく快調なペースで日標を遂行してきました。
ところが、ここにきて見込みに大きな狂いが生じ、年間目標未達の危機に追い込まれています。
そのせいか、商談の際「またお客様に反対されたらどうしよう」という気持から、思い切った提案に二の足を踏むようになってしまいました。
上司に相談しても「ばかだなあ、営業はお客様の反対からだぞ」と言うばかりで、意味がよくわかりません。だって、反対されたら商談は終わってしまうじゃないですか。
《A》お客様の反対はチャンス!それは真実なのです
今回のお悩みは、終盤の追い込み時期に、自分の営業スタイルに迷ってしまっているKさんです。でもご安心ください。この迷いを払拭するのは、そんなに難しいことではありません。
まずは「お客様に反対されたら商談は終わってしまう」という意識について考えてみましょう。
「反対」は商談における現象とは限りません。
例えば、仕事帰りに先輩を飲みに誘うシーンを思い浮かべてみてください。
「〇〇さん、そろそろ終わりますか?」
「ああ、この書類を片付けたら」
「でしたら、このあと軽く一杯行きませんか?」
「う~ん、それがちょっと...」
これは誘った側からすると先輩から「反対」されたということになりますよね。
では、これで会話が終わるかというと、そうではないでしょう。
「え、何かご予定でも?」
「いや、予定ってわけじゃないんだが...」
「もしかして、お子さんが?」
「子どもじゃなくてカミさんが。ちょっと具合が悪そうでな」
こんな感じでこちらは誘いを断った理由を尋ねるでしょうし、相手も事情を話してくれるでしょう。
人は「反対した手前、その理由を聞かれると『答えなくてはならない』という義務感めいた心理」になります。
心の奥に「反対した自分を正当化したい」という自己防衛の欲求があるからです。
これは商談についても同じ。提案を反対された場合、その理由を尋ねれば、大概のお客様は背景にある事情を話してくださるでしょう。
もちろん、質問の仕方に配慮は必要です。先ほどの例で言うと、先輩に対して「何で行けないんですか」とか、「予定がないなら、他に何があるんですか」などと直球でグイグイ押してしまうと、「お前には関係ないだろ!」と対立してしまいかねません。
質問の仕方や言葉には注意が必要です。
お客様のことを理解しよう
さて、ある程度先方の事情を聞けたら次にどうするべきでしょうか。先ほどの先輩との会話に戻ります。
「そうでしたか、失礼しました」
「いや、気にしなくていいんだよ」
「私に何かできることはありませんか。事務処理のお手伝いとか」
「サンキュー。今のところ大丈夫だ。ただ、もしカミさんの具合が悪くなるようだったら、明日は手を貸してもらうかもしれないな」
「はい、もちろんです!」
「すまないな。(カミさんが)良くなったら一杯やろう!」
いかにも職場でありそうなシーンですが、商談でも同じようにうまくいくものなのかと、Kさんはまだまだ納得していないようです。
しかし、反対したお客様の心に働く力学はほとんど同じです。
営業パーソンがお客様の反対の理由に深い理解を示し、納得し、合意をしたら、お客様はどんな心理になるでしょう。
先ほどの例の先輩のように、「ありがとう」とか「悪かったな」といった気持ちになるのではないでしょうか。
これを「鏡の法則」と言います。
こちらが相手の気持ちを受け入れようと努めれば、相手もこちらを受け入れようとします。
逆に自分の都合を押し付ければ、相手もかたくなになって対立が深まります。
そもそも商談とは、お勧めする商品の価値とそれに基づく効用をお客様に理解し、購入していただくための働きかけのこと。
自分を理解してもらうためには、まず自分が相手を理解する。お客様の立場で考えれば当然のことでしょう。
しかし、理解しようという姿勢を相手に伝えるのは容易ではありません。
だからこそお客様に「反対」された時が絶好のチャンスなのです。
「営業はお客様の反対から」と言うKさんの上司も、おそらく同じ思いでしょう。
では最後に、お客様の反対を受け入れた後の具体的な対応を確認しておきましょう。
営業パーソンが反対の理由を理解してくれたと感じたお客様は、自己防衛の鎧を緩めるとともに、こちらに対して歩み寄りの姿勢を示します。
しかしそれは、営業パーソンの人間性に対してであって、商品の購入に対してではありませんから、ここでうかつに商品の話を蒸し返してしまったら元の木阿弥です。
ではどんな話題が適切なのかというと、それは「世間話」です。
世間話は決して、暇つぶしの雑談ではありません。世間話には相手との「心の接近」という、明確な意図があります。
ですから話題も意図的に選ばなければなりません。
お客様との効果的な世間話によって狙うのは、次の三つです。
①肯定的な場の空気
②人間的な親しみの感情
③プロとして頼りがいある雰囲気
これらの要件が満たされていると、お客様は「こういう人になら、ぜひ相談してみたいなあ」という心情になり、ここから本格的なリサーチと入っていけるのです。
*本原稿は、株式会社ジェック「行動人」438号から転載・加工いたしました。
〈参考〉